ファンディングレートとは 無期限先物の受払いと価格差
満期のない先物の値段が現物から離れきらないのはなぜか。買い手と売り手が数時間ごとに払い合う資金調達率の向き、価格差との関係、取引所ごとの違い、BTCとETHの実際の推移を図で説明します。
満期のない先物の値段が現物から離れきらないのはなぜか。買い手と売り手が数時間ごとに払い合う資金調達率の向き、価格差との関係、取引所ごとの違い、BTCとETHの実際の推移を図で説明します。
先物は、将来の決まった日に決まった値段で売り買いする約束です。暗号資産の取引所には、その「決まった日」がない先物も並んでいます。決済の日が来ないなら、先物の値段は現物の値段から離れたまま戻らなくてもよさそうに見えます。それでも取引所は、両者を近づけるための仕組みを契約に組み込んでいます。買い手と売り手が数時間おきにお金をやり取りする、資金調達(ファンディング)です。
満期日がなく、決済しない限り持ち続けられる先物を無期限先物(パーペチュアル)と呼びます。無期限先物の値段は、先物の取引所で買い手と売り手が付けたものです。現物の値段と同じになる約束はありません。
先物の値段は、現物を参照する指数価格より高くなることも、安くなることもあります。高い状態をプレミアム、安い状態をディスカウントと呼びます。資金調達は、この開きを縮める向きに働くよう取引所が設けた仕組みです(Bybit「資金調達率に関して」)。
図の青い塗りがプレミアム、緑の塗りがディスカウントです。決済の日が来ない無期限先物で、この開きを縮める働きを受け持つのが、次に見る受払いです。
先物を買って持っている立場をロング、売って持っている立場をショートと呼びます。決められた時刻になると、ロングとショートの間で資金調達料が受け払いされます。どちらが払うかは、資金調達率(ファンディングレート)の符号で決まります。
率が正ならロングがショートに払い、負ならショートがロングに払います。開きが大きいときは、先物が現物より高ければ率は正に、安ければ負になります。開きが小さいときの率は、次の節の式で見ます。
先物が高いとき、ロングは持っているだけで支払いが生じます。受け取る側のショートは持ちやすくなります。先物の売りが増え、買いが減れば、先物の値段は現物へ下がる向きに押されます。安いときはこの向きがそっくり逆になります。
資金調達料はロングとショートの間で直接やり取りされ、取引所は受け取りません(Binance「Introduction to Binance Futures Funding Rates」、OKX「Perpetual funding fee mechanism」、Hyperliquid「Funding」)。受払いが生じるのは決められた時刻にポジション(決済していない取引上の立場)を持っている人だけで、その前に決済すれば払いも受け取りもありません(Bybit「資金調達率に関して」)。
率の大きさは、先物と現物の開きから計算されます。開きを割合で表した値をプレミアム指数と呼びます。先物の板(売りと買いの注文が値段ごとに並んだ一覧)で実際に売り買いできる値段が、指数価格からどれだけ離れているかを測った値です。
主な取引所の式は、どれも次の形をしています。
はプレミアム指数、 は金利部分です。 は、 を から の範囲に収める操作です。金利部分は取引所が定めた一定の値で、8時間あたり0.01%です。Bybit・OKX・Binance・Hyperliquid でそろっており、開きがゼロのときもこの値が率として残ります。
Bybit と OKX は、この式で出た値に最後に上限と下限を当てはめます。上限・下限まで含めて図にすると、真ん中が平らな折れ線になります。
開きが小さいうちは、率は金利部分の0.01%に張り付きます。率が正のままなので、この範囲ではロングが少しずつ払い続けます。開きが一定の幅を超えると率は開きと一緒に動き、最後は上限か下限で止まります(Bybit「資金調達率に関して」、OKX「Revision of the Funding Rate Formula」)。
Bybit はプレミアム指数を、インパクト入札価格とインパクトアスク価格が指数価格からどれだけ外れているかで定めています。
8時間の間に測った値は、後の時点ほど重く数える平均にしてから式に入れます。値動きが大きい期間には上限・下限を一時的に変えることがあり、決済時に上限・下限に達したときは受払いを1時間ごとに切り替えるとしています(Bybit「資金調達率に関して」)。
率が向きを示しても、参加者がその通りに売り買いするとは限りません。売買の費用や、価格差を使う取引がしにくい事情があり、率には上限もあります。資金調達は開きを縮める向きの誘因を与えるだけで、縮むことを約束する仕組みではありません。
率が分かれば、1回に動くお金の額が決まります。受払額は、ポジションの名目額に率を掛けた値です。名目額は、持っている数量にマーク価格(取引所がポジションの評価に使う基準価格)を掛けた金額です(Bybit「資金調達料の計算」)。
架空の数字で、率の符号と額がどう結び付くかを確かめます。1 BTC 分のポジションを持ち、マーク価格を50,000 USDT(米ドルとの連動を目指す暗号資産の単位)とします。名目額は50,000 USDTです。
率が+0.01%ならロングが5 USDTを払い、ショートが受け取ります。率が−0.01%なら同じ5 USDTが逆向きに動きます。
5 USDT は1回分の額です。価格が動いたことによる損益や売買手数料は含みません。受払いが1日に何回あるかで、1日あたりの額が変わります。
8時間ごとの受払いなら1日3回です。率が+0.01%のまま1日続けば、上の例のロングは 5 × 3 = 15 USDT を払います。
払う向き、式の形、金利部分は取引所の間でそろっていました。違いが出るのは、受払いの間隔と、名目額を測る価格です。
間隔が短い契約では、1回の率も短い時間の分になります。Binance と OKX の式は、N時間ごとの契約で8時間分の率を 8/N で割ります。1時間ごとなら1回の率は8時間分の8分の1です。率を比べるときは、何時間ごとの率かをそろえる必要があります。
OKX は2026年6月に式を改め、受払いの間隔を1・2・4・8時間のいずれかとする形にしました(OKX「Revision of the Funding Rate Formula」)。同じ取引所の中でも、契約によって間隔が違うことがあります。
ここまでの例は+0.01%という架空の率でした。実際の率がどのあたりにあるかを、Binance の BTCUSDT と ETHUSDT の無期限先物で見ます。8時間ごとの率を、月ごとに平均した値です。
2021年2月の月平均は BTCUSDT が0.0862%、ETHUSDT が0.1015%でした。前の節の式でいえば、開きが平らな範囲を大きく超えていた時期です。2022年以降、月平均の多くは破線の0.01%のすぐ下に集まっています。2022年は両銘柄とも、どの月も最も高い回がちょうど0.0100%でした。率が金利部分の0.01%に張り付き、ときどき下に外れていたことになります。
全期間を通すと、正の回は BTCUSDT で86%、ETHUSDT で84%でした。ロングが払う側に回る時間の方が長かったことになります。月平均が負になったのは、ETHUSDT の2022年9月(−0.0173%)や、両銘柄の2026年2月〜4月など一部の月です。
BTCUSDT の2021年7月は月平均が−0.0019%でしたが、93回のうち51回は正、42回は負でした。月平均は、正と負が混ざった結果の差し引きです。
率が高い時期は、ロングの持ち続ける費用が大きかった時期です。買いに人が集まった状態を読む手がかりにはなります。ただし、率や建玉先物建玉(open interest、OI)は、保有する建玉を逆方向の取引で閉じる反対売買や最終決済が済んでいない契約の数量です。ある時点の残高を示し、出来高や買い・売りの偏りとは異なります。の動きを並べても、その後の値上がりや反発は安定して読み取れなかったという分析があります(Gate Research「デレバレッジは反発を予測できるか?」)。建玉が減っても、それだけではロングとショートのどちらが手仕舞ったかは分かりません。
資金調達率は、持ち続ける費用と、どちらの立場に人が偏っているかの目安です。将来の値動きを確定させる数字ではありません。
率が正の時間が長いなら、ショートを持って受け取る側に回る使い方も考えられます。ただ、ショートだけを持つと、値上がりで損が出ます。そこで同じ量の現物を買い、値動きの損益を打ち消す組み合わせがあります。キャッシュ・アンド・キャリーと呼ばれる形です(BIS「Crypto carry」)。
合計の線が平らなので、値動きの損益はほぼ消えます。残るのは、先物の売り側に入る資金調達料です。率が正の時刻にショートを持っていれば受け取り、率が負に変われば、その時刻からはショートが払う側になります。
取引の費用、金利、現物と先物の開きの変化も損益に入ります。受け取った資金調達料の合計だけでは、費用を差し引いた結果は決まりません。BIS の論文は、暗号資産の先物と現物の開きから得られる利回り(キャリー)が年60%に達した時期があり、大きく変動してきたと記しています。
図の先物の売りの線は、値上がりすると損失になります。合計が0でも、先物側では損失に応じて証拠金(取引のために差し入れた担保)が減ります。先物側の損失が膨らむ局面で必要な証拠金が急に増え、強制的に決済(清算)されることが、この組み合わせのリスクとして挙げられています(BIS「Crypto carry」)。Bybit では資金調達料が証拠金から差し引かれることがあり、証拠金の管理方法によっては清算される価格がマーク価格に近づきます(Bybit「資金調達料の計算」)。