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用語解説確率

指示確率変数

事象 A に対して、結果が A に含まれるとき 1、含まれないとき 0 を返す確率変数。期待値を取るとちょうど A の確率に一致し、確率を期待値の計算に乗せる道具として使われる。

指示確率変数とは、事象 AA に対して結果が AA に含まれるとき 1、含まれないとき 0 を返す確率変数です。期待値を取ると E[IA]=P(A)E[I_A] = P(A) となり、確率を期待値の計算体系に乗せる道具として使われます。

定義

標本空間 Ω\Omega の部分集合として定義される事象 AA に対し、指示確率変数(indicator variable)IAI_A は次の規則で値を取ります。

IA(ω)={1(ωA)0(ωA)I_A(\omega) = \begin{cases} 1 & (\omega \in A) \\ 0 & (\omega \notin A) \end{cases}

ここで ω\omega は標本空間 Ω\Omega の要素(1 回の試行で生じる 1 つの結果)、AcA^cAA の補集合です。

記法は文献によって IAI_A1A1_A1A\mathbf{1}_A1A\mathbb{1}_A の 4 通りが混在します。本ページでは IAI_A を使います。「指示関数(indicator function)」と同じ意味で使われることもありますが、確率論の特性関数(characteristic function φX(t)=E[eitX]\varphi_X(t) = E[e^{itX}])とは別物です。英語名で indicator function vs characteristic function を区別するのが安全です。

性質

  • 機能関係の核心: E[IA]=1P(A)+0P(Ac)=P(A)E[I_A] = 1 \cdot P(A) + 0 \cdot P(A^c) = P(A)期待値を取ると確率になります。この等式は定義から自動的に出る事実で、計算なしに常に成り立ちます。
  • べき等性: IA2=IAI_A^2 = I_A。値が 0 か 1 なので、何乗しても元の値のままです。
  • 積で交わりを表す: IAB=IAIBI_{A \cap B} = I_A \cdot I_B。両方の事象が起きているときに限り 1 になります。
  • 和は包除原理に対応: IAB=IA+IBIAIBI_{A \cup B} = I_A + I_B - I_A I_B
  • 分散はベルヌーイ分布の分散と同じ形: Var(IA)=P(A)(1P(A))\mathrm{Var}(I_A) = P(A)(1 - P(A))

視覚的に見る

事象 A={2ω5}A = \{2 \le \omega \le 5\} を標本空間 [0,7][0, 7] の区間として設定したとき、IA(ω)I_A(\omega) が描くグラフです。横軸は試行結果 ω\omega、縦軸は指示変数の値(0 か 1)です。

事象 A と指示変数 I_A のグラフ事象 A = [2, 5]I_A = 1I_A = 0I_A = 001234567ω(標本空間)01I_A(ω)

青い太線の区間が事象 A=[2,5]A = [2, 5] です。結果 ω\omega がこの区間に入ると IA=1I_A = 1(上段)、区間の外なら IA=0I_A = 0(下段)になります。ジャンプ点(ω=2\omega = 2ω=5\omega = 5)では左端の点が塗りつぶし(区間内に含む)、右端の点が白抜き(区間外)になっています。

E[IA]=P(A)E[I_A] = P(A) は、この図でいえば「ステップが 1 になっている区間の確率」が期待値と一致することを示しています。

実世界での使われ方

機械学習の 0-1 損失。分類問題の 0-1 損失は L(y,y^)=I{yy^}L(y, \hat{y}) = I_{\{y \neq \hat{y}\}} と書けます。予測 y^\hat{y} が正解 yy と外れたら 1、当たれば 0 を返す指示変数です。学習データ nn 件の経験誤分類率 1ni=1nI{yiy^i}\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} I_{\{y_i \neq \hat{y}_i\}}期待値E[IA]=P(A)E[I_A] = P(A) により真の誤分類確率 P(YY^)P(Y \neq \hat{Y}) に一致します。この一致関係が「誤分類率を下げることが最適化の目的と等価になる」根拠です。詳細は scikit-learn の 0-1 loss ドキュメント で確認できます。

公的統計のカテゴリ別集計。総務省統計局「国勢調査」では「65 歳以上」「単独世帯」「就業者」などのカテゴリ別人数を集計します。内部的には各個人 ii に対して I{iA}I_{\{i \in A\}} を計算して合計する処理です。期待値の線形性により、サンプリング調査でも E[IˉA]=P(A)E[\bar{I}_A] = P(A) が保証されるため、標本から母集団全体の比率を推定することが正当化されます。

金融のデジタルオプション。ヨーロピアン・キャッシュオアナッシングコール(cash-or-nothing call)のペイオフは I{ST>K}I_{\{S_T > K\}} で書けます。満期 TT に原資産価格 STS_T が行使価格 KK を上回れば 1 単位の現金を受け取り、下回れば 0 の契約です。リスク中立期待値 EQ[I{ST>K}]=Q(ST>K)E^Q[I_{\{S_T > K\}}] = Q(S_T > K) がそのままオプション価格になるため、指示変数が金融工学の価格計算にそのまま登場します。日本取引所グループのデリバティブ商品概要 でデジタルオプションの仕組みを確認できます。

深掘り

二項分布期待値を 2 行で出す

確率 pp で成功する独立な試行を nn 回繰り返すとき、ii 回目の試行で成功する事象を AiA_i とおきます。Xi=IAiX_i = I_{A_i} は値 1(成功)か 0(失敗)を取り、E[Xi]=P(Ai)=pE[X_i] = P(A_i) = p です。

合計成功回数 X=X1+X2++XnX = X_1 + X_2 + \cdots + X_n期待値は、期待値の線形性により

E[X]=i=1nE[Xi]=i=1np=npE[X] = \sum_{i=1}^{n} E[X_i] = \sum_{i=1}^{n} p = np

で即座に出ます。素朴な計算では E[X]=k=0nk(nk)pk(1p)nkE[X] = \sum_{k=0}^{n} k \binom{n}{k} p^k (1-p)^{n-k} を二項展開で処理する必要がありますが、指示変数による分解では 2 行で完了します。親記事 stats-06: 期待値とは何か 節 6「線形性の威力」が指しているのは、この分解です。

独立性なしで成り立つ一般化

上の二項分布の導出では、AiA_i独立性使っていません期待値の線形性 E[X+Y]=E[X]+E[Y]E[X + Y] = E[X] + E[Y]独立性を要求しないからです。一般に事象 A1,,AnA_1, \ldots, A_n独立でなくても

E ⁣[i=1nIAi]=i=1nP(Ai)E\!\left[\sum_{i=1}^{n} I_{A_i}\right] = \sum_{i=1}^{n} P(A_i)

は常に成立します。たとえばランダムな順列で「固定点(自分の位置に来る要素)」の個数の期待値を求める場合、各位置 ii の固定点確率は 1/n1/n ですが、各事象は独立でありません。それでも E[X]=i=1n1n=1E[X] = \sum_{i=1}^{n} \frac{1}{n} = 1 が成立します。確率の和 P(AB)P(A \cup B) の計算では包除原理の複雑な処理が必要ですが、指示変数を通した期待値の計算なら独立性の有無に関わらず線形に足し合わせられます。

特性関数との混同回避

日本語の確率論教科書では IAI_A を「指示関数」と書く文献と「特性関数」と書く文献が混在します。しかし確率論の特性関数(characteristic function)とは φX(t)=E[eitX]\varphi_X(t) = E[e^{itX}] であり、指示変数とは全く別の概念です。英語名で indicator function と characteristic function を区別する習慣をつけておくと、英語文献を読む際に混乱しません。本ページでは一貫して「指示確率変数・指示関数(indicator)」と呼びます。

よくある誤解

「指示変数の期待値は確率である」は常に成り立つ事実です。IAI_A が取る値は 0 か 1 の 2 択なので、期待値の計算は 1P(A)+0P(Ac)=P(A)1 \cdot P(A) + 0 \cdot P(A^c) = P(A) に帰着します。「事象が起きるかどうかわからないから期待値も曖昧」という誤解が生じることがありますが、期待値は確率を重みとした平均であり、P(A)P(A) が決まれば E[IA]E[I_A] も自動的に決まります。

関連する用語

  • 算術平均(経験指示変数の平均 1ni=1nIAi\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} I_{A_i} が母集団比率 P(A)P(A) の推定量になります)
  • 期待値E[IA]=P(A)E[I_A] = P(A) の左辺を定義する概念。指示変数は期待値計算の最小単位として機能します)

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