USD/JPY 91 銭幅に押し込まれた週(介入 11.7 兆円の鉛と日米中銀の綱引き)
USD/JPY が週レンジ 91 銭幅で膠着した週。介入 11.7 兆円の実弾公表が上値の鉛、日米金利差 3.00pt が下値の床として両側から挟む構造を、FOMC 反対 4 票・ECB 利上げ観測まで含めて分解する。
為替(fx)の週次解説だ。今週(2026-W22、5/25〜5/29)のドル円は終値 159.27 円(週次 +0.05%)、週レンジ 158.76〜159.67 の 91 銭幅と膠着した。市場が 160 円手前での介入再開を意識し続けた結果であり、5/29 に財務省が公表した 4/28〜5/27 の円買い介入額 11 兆 7,349 億円はその実弾を数字で確認させた。米国側では PCE コア +3.3%(前年比)・GDP 改定値 +1.6% という「スタグフレーション気味」の組み合わせが示現しながら、CME FedWatch の 6 月据え置き確率は 99.9% を維持し、Fed は動けない状況が続く。今週の全体感は 今週の総評(overview) を参照されたい。
来週以降(6/5 NFP → 6/10〜11 ECB)が、6/15〜16 日銀・6/16〜17 FOMC という 6 月中盤のトリプル中銀に向けた前哨戦になる 2 週間だ。
| USDJPY | 159.27 | +0.05% | +0.32% | +1.58% |
| EURUSD | 1.17 | +0.49% | -0.61% | -0.56% |
| DXY | 98.91 | -0.33% | +0.77% | +0.60% |
| EURJPY | 185.72 | +0.54% | +0.89% | — |
| GBPUSD | 1.35 | +0.23% | -0.85% | -0.05% |
| AUDJPY | 114.42 | +0.84% | +1.10% | — |
EUR/JPY・AUD/JPY の年初来変動は 2026 年 1 月 2 日終値データが未取得のため非掲載。
USD/JPY の日次足は以下の通りだ。
| 日付 | 始値 | 高値 | 安値 | 終値 |
|---|---|---|---|---|
| 5/25(月) | 158.95 | 159.06 | 158.76 | 158.90 |
| 5/26(火) | 158.90 | 159.39 | 158.85 | 159.30 |
| 5/27(水) | 159.30 | 159.59 | 159.17 | 159.51 |
| 5/28(木) | 159.52 | 159.67 | 159.12 | 159.24 |
| 5/29(金) | 159.22 | 159.39 | 159.10 | 159.27 |
系列: USD/JPY 日次終値推移(W22: 2026-05-25〜05-29)(単位: 円)。期間: 05-25〜05-29。開始: 158.9、終了: 159.27、最小: 158.9、最大: 159.51。傾向: 上昇。
| 日付 | 値 | 単位 |
|---|---|---|
| 05-25 | 158.9 | 円 |
| 05-26 | 159.3 | 円 |
| 05-27 | 159.51 | 円 |
| 05-28 | 159.24 | 円 |
| 05-29 | 159.27 | 円 |
週高値は木曜 159.67、週安値は月曜 158.76 で、91 銭幅という数字が示すのは「160 円には届かず、158 円台後半も守られた」という水平的な拮抗だ。
FOMC は 4/28〜29 に開催し、FF レート目標値 3.50〜3.75% を 3 会合連続で据え置いた(FRB 公式声明 4/29)。投票は賛成 8・反対 4 だった。
反対票の内訳は明確だ。ミラン委員が 0.25% 利下げを主張した一方、ハマック・カシュカリ・ローガンの 3 名は据え置き自体には賛成しながら、声明文の「緩和バイアス」を削除するよう求めた。実質的にタカ派方向への 3 票だ。反対票 4 名は 1992 年 10 月以来初めてで、FOMC 内の政策方向感の分裂が過去 30 年超で最高水準に達したことを意味する(FRB 公式声明・議事録)。
議事録(FRB 公式、4/28〜29 分)には「インフレ上方リスクと雇用下方リスクが双方とも上昇している」という双方向リスクの識別が明記されている。スタッフはインフレ予測を上方修正し、2026 年 PCE 総合を 3.5% と置いた。「インフレは 2027 年末にかけて 2% に近づく」との収束シナリオを維持しつつも、中東情勢が「著しい不確実性」をもたらしているとも認めている。
| 委員 | 投票 | 主張 |
|---|---|---|
| パウエル、ウィリアムス、バー、ボウマン、クック、ジェファーソン、ポールソン、ウォーラー(8 名) | 賛成 | 現状維持 |
| ミラン | 反対 | 0.25% 利下げを主張 |
| ハマック | 反対 | 据え置き支持・声明文の「緩和バイアス」削除を要求 |
| カシュカリ | 反対 | 同上 |
| ローガン | 反対 | 同上 |
ウォーシュ新 FRB 議長(第 17 代、5/22 就任宣誓)が最初に臨む FOMC は 6/16〜17 だ。ドットプロットの更新と緩和バイアス削除の有無が最大の注目点だ。
日銀側は 4/28 の決定会合で 0.75% を据え置き(賛成 6・反対 3)。反対 3 名(中川・高田・田村)は利上げを主張し、2026 年度 CPI 中央値は +2.8% に大幅上方修正された。しかし 5/29 に発表された東京都区部 CPI コアコア(5 月)は +1.6%(予想 +1.9% を大幅下振れ、6 カ月連続鈍化)で、日銀 6 月利上げ期待は週末にかけて急速に後退した。
この組み合わせが「日米金利差温存」の構造を作っている。FRB も日銀も動けない以上、3.50〜3.75% vs 0.75% の金利差 2.75〜3.00% pt は当面維持される。ドル円が下がらない根拠はここにある。

5/28 に発表された 4 月 PCE デフレーターは、コア前年比 +3.3%・前月比 +0.2%(予想 +0.3% 下振れ)だった。前月比は加速を避けたが、前年比 +3.3% は Fed 目標 2% の 1.65 倍という水準を維持している。同日公表の Q1 GDP 改定値は年率 +1.6%(速報 +2.0% から -0.4pt 下方修正)で、投資と個人消費の下振れが主因だ。
「インフレ高止まり × 成長下振れ」という組み合わせは教科書的なスタグフレーションに近い。Fed は利上げでインフレを叩くことも、利下げで成長を支えることもできない状況に置かれている。CME FedWatch の 6 月据え置き 99.9% はこの構図を正確に映している。
| 指標 | 実績 | 備考 |
|---|---|---|
| PCE 総合(前年比) | +3.8% | エネルギー +10.8% が押し上げ |
| PCE コア(前年比) | +3.3% | 前月から横ばい |
| PCE コア(前月比) | +0.2% | 予想 +0.3% を下振れ |
| PCE 総合(前月比) | +0.4% | |
| 名目個人消費支出(前月比) | +0.5%(+$111.1B) | |
| 実質個人消費支出(前月比) | +0.1%(+$18.1B) | 実質は鈍化 |
| 個人貯蓄率 | 2.6% | 低水準 |
出典: BEA(米商務省経済分析局)4 月個人所得支出報告
では、なぜスタグフレーション気味なのに DXY は週次 -0.33% と弱含んだのか。ドル自体は底堅いが、ECB の利上げ期待がユーロを支え、GBP・AUD も対ドルでプラス推移したため、ドルはバスケット内で押し下げられた。DXY はユーロウェイト 57.6% の指数なので、EUR/USD の動きがほぼ単独で DXY を引き下げた直接要因だ。粗い寄与分解を示す。
「スタグフレーション気味 = ドル底堅さ維持」と「DXY -0.33%」が両立するのは、対欧州通貨(EUR 主導)と対円で別ドライバーが効いているためだ。前者は ECB 利上げ期待による EUR 高、後者は日銀利上げ期待後退による円安で、USD 自体の方向感は通貨ペアごとに相殺されている。USD/JPY が +0.05% と小幅ながらプラスを維持できたのは、「円だけが弱かった」という事実がある。
EUR/USD は 1.1660(週次 +0.49%、5/22 終値 1.1603 から)で小幅反発した。月次では -0.61%(5/1 終値 1.1732 から)で「週次反発、構造ドル高」の二段構造が続く。
ユーロ圏 CPI(4 月)は総合 +3.0%、エネルギー +10.8% と強い数字が出ており、ECB にとって利上げ圧力は継続している。ECB は 4/30 の会合で預金ファシリティを 2.00% で据え置いたが、6/10〜11 の会合で +25bp(2.00% → 2.25%)への利上げが市場で有力視されている。
ECB は 4/30 に金利を据え置き、データ依存姿勢を継続した。ユーロ圏 CPI(4 月)総合 +3.0%(エネルギー +10.8%)という強い数字を受け、6/10〜11 の会合で +25bp 利上げが有力視されている。実施されれば預金ファシリティは 2.25% となる。
グローバルには、FRB は据え置き・日銀は据え置き優勢という状況の中で、ECB だけが利上げ継続という構図だ。この非対称が EUR 買い支えの根拠だ。
ただし月次・年初来でユーロは弱含みであり(月次 -0.61%、年初来 -0.56%)、6 月利上げ後の ECB の次の一手が読めないため、大幅なユーロ上昇シナリオには慎重な見方もある。
EUR/JPY は +0.54%(184.73→185.72)、AUD/JPY は +0.84%(113.47→114.42)、GBP/USD は +0.23%(1.3430→1.3461)だった。AUD/JPY が最も強く、今週の株式市場(S&P500 +1.43%、日経 +4.73%)と整合するリスクオン地合いを示している。
クロス円の上昇は「円独歩高」ではなく「円安方向の力が他通貨に均等に効いている」ことを示す。AUD/JPY の強さは「高金利通貨の AUD に資金が向かいながら、低金利の円が売られる」キャリー地合いの継続だ。
低金利の円を借りて(円売り)、高金利通貨(AUD、USD 等)で運用する取引。金利差がそのまま収益になる一方、円高・株安などリスクオフ局面では急速な巻き戻し(円買い戻し)が発生し、クロス円が急落する。今週の AUD/JPY +0.84% は株高・リスクオン継続でキャリーが積み増された動きと解釈できる。
市場は 4/28 以降の介入再開を意識しており、160 円手前の売り圧力が週を通じて機能した。財務省は 5/29 に月次定例公表として、令和 8 年 4 月 28 日〜5 月 27 日の円買い・ドル売り介入額を 11 兆 7,349 億円 と発表した。直前期(3/30〜4/27)の介入額はゼロだったため、この期間に介入が再開されたことが確定している。5/29 の公表がその実弾を数字で確認させ、来週以降の上値抑止力をさらに強化した。
2024 年 GW 介入の実績データ(財務省 Q2 2024 四半期開示)
| 日付 | 介入額 | USD/JPY 終値 |
|---|---|---|
| 2024-04-26(介入前) | — | 158.34 |
| 2024-04-29(第 1 弾) | 5 兆 9,185 億円 | 156.25 |
| 2024-05-01(第 2 弾) | 3 兆 8,700 億円 | 155.27 |
| 2024-05-03(底値) | — | 153.06 |
| 2024-05-10(1 週間後) | — | 155.79 |
| 2024-05-15(2 週間後) | — | 154.58 |
2024 年 GW 介入の合計は 9 兆 7,885 億円(今回 11.7 兆円は 2024 年比 約 +20%)。介入起点 158.34 → 底値 153.06 の下落幅は -5.28 円(-3.3%)で、その後 2 週間は 154〜156 円レンジに収まった。介入前水準(158 円台)への即時回帰は起きなかった。
上値抑止のメカニズム: 市場参加者は「160 円に近づいたら再度実弾が入る」という記憶を持つ。今回の 11.7 兆円公表はその記憶を数値で更新し、次の介入トリガー水準(160 円前後)への到達コストを市場が改めて計算するよう促す。2024 年と今回の違いは、今回の日次内訳が 2026 年 8 月まで非公表で「いつ・いくら入ったか」が市場に読めない点だ。この不透明さが投機的な 160 円超えを抑止する不確実性プレミアムとして機能する。
ただし 2024 年も介入 2 カ月後の 6 月下旬には再び 160 円を突破し、7/11〜12 に追加介入(約 5.5 兆円)が必要になった(出典: NRI 野村総研)。今回の 11.7 兆円も「恒久的な上値封鎖」ではなく「短中期の抑止」という評価が正確だ。規模・タイミング・市場反応の詳細比較は 2026 年 8 月の日次内訳公表後に改めて行える。
財務省は円買い介入を日銀に委託して実施する。月次ベースの確定値は翌月末に公表される仕組みで、市場は「今月の介入有無」を翌月末まで正式には確認できない。
5/29(金)の週末に公表された介入実績は、「直近 1 カ月でこれだけ実弾が入った」という事実を改めて市場に明示する。160 円が近づいた局面で市場は「次も入る」と読み、上値が重くなる。口先介入ではなく実弾の公示という構造が、来週以降の 159 円台後半〜160 円前を上値として機能させる効果を持つ。
口先介入(バーバル・インターベンション): 財務大臣・外務省が「過度な変動は容認できない」「注視している」等の発言をすること。実際の外国為替売買は行わない。心理的な抑止効果のみ。
実弾介入(為替介入): 財務省が外国為替資金特別会計の準備高を使い、日銀に指示して実際に外国為替市場で円買い・ドル売りを行うこと。市場参加者のポジションを強制的に圧縮する効果がある。
今回の 11 兆 7,349 億円は実弾介入の月次集計だ。日次内訳は 8 月公表まで不明だが、月次合計が大きいほど「いつどこで入るかわからない」というリスクが市場の売り圧力を高める。
今週のドル円は、上に介入の鉛、下に金利差の床という両側からの押し合いだ。
「動けない Fed × 据え置き観測強まる日銀」が続く限り、日米金利差は温存され、ドル円は 158 円台を下抜けする力が出ない。一方、160 円が近づけば介入の記憶が実弾観測に変わり、上値も重くなる。この構図は短期では解消しにくく、来週も同じ水準での推移が基本シナリオだ。
インフレ見通しについては対立する見方がある。FOMC 議事録に書かれたスタッフ予測は「2027 年末にかけて PCE が 2% に近づく」という収束シナリオを維持しており、エネルギー価格主導の上昇が一時的だとみている。
一方、今週出揃ったデータは別の構図を示す。PCE コア前年比 +3.3% は 3 カ月連続で高止まりし、GDP 改定値は速報から -0.4pt 下方修正された。「インフレが落ちない中で成長が鈍化する」というパターンは、収束シナリオが想定する「需要鈍化でインフレ自然収束」という経路を崩す可能性がある。インフレ再加速シナリオが現実になれば、Fed は「動けない」どころか「利上げせざるを得ない」局面に追い込まれ、ドル円の上昇圧力は介入の鉛を超えて強まりうる。現時点ではコンセンサスは収束シナリオ側にあるが、6/5 NFP と 6/10〜11 ECB の結果が再加速シナリオの確率を引き上げる可能性は排除できない。
介入 11.7 兆円は「160 円を買いにくくさせる」実弾であり、日米金利差は「158 円を売りにくくさせる」構造的な床だ。両側からの圧力が 91 銭幅に凝縮されている。この膠着を破るには、米雇用(NFP)か日銀の政策変更か ECB の利上げ幅という外部ショックが必要だ。
6/10〜11 ECB +25bp 利上げが実施された場合、EUR 買いが入り DXY が軟化する。ECB 利上げ → EUR/USD 上昇 → DXY 軟化 → USD/JPY に対する下向き圧力という伝播路だが、日米金利差が支配的な限り下落幅は限定的だ。
6/3(水)植田日銀総裁講演は、東京 CPI コアコア +1.6% 大幅下振れ後の最初の公式発言で、来週の円相場の方向性を左右する。据え置き示唆が明確なら円安継続を後押し、前向きな発言があれば円高圧力が生じる。
| 会合 | 据え置き確率 | 25bp 利下げ確率 |
|---|---|---|
| 6/16〜17 FOMC | 約 99.9% | 約 0.1% |
出典: CME Group FedWatch(2026-05-25 時点)
市場は Fed の利下げをほぼ完全に織り込んでおらず、ドルの下値は金利差によって支えられている。ウォーシュ新議長(5/22 就任)が初 FOMC でどのようなトーンを出すかが 7 月以降の方向性を左右する。
| 通貨ペア | 買い材料 | 売り材料 |
|---|---|---|
| USD/JPY(円売り・ドル買い) | 日米金利差 2.75〜3.00% pt / 日銀 6 月利上げ期待後退 / 東京 CPI コアコア +1.6% 下振れ | 財務省介入観測(11.7 兆円の実弾公表)/ Fed の据え置き継続で利下げ期待は出ず |
| EUR/USD(ユーロ買い) | ECB 6 月 +25bp 利上げ有力 / ユーロ圏 CPI +3.0%(エネルギー +10.8%) | 月次・年初来はドル強含み構造 / 停戦後の欧州経済回復速度の不確実性 |
| EUR/JPY(クロス円ユーロ買い) | EUR の利上げ材料 × 円の据え置き継続 | 介入観測が円全面安を抑制 |
| AUD/JPY(リスクオン高金利) | リスクオン地合い継続(株式上昇と整合)/ 豪金利水準 | 中国マクロ指標の不確実性 |