コモディティ複合の二極分化: 金 -4.28% と WTI +3.64%、9 ポイントの方向差(2026-W23)
同じドル高・同じ金利上昇を浴びながら貴金属 -6.63% と原油 +2.38% に分かれた週。物理資産的な原油(ホルムズ供給制約)と金融資産的な貴金属(NFP→実質金利上昇)という二つの独立ショックでコモディティ複合が二極分化した構造を、方向差 9 ポイントから分解する。
2026年6月第1週、コモディティ複合は二つの独立したショックで正反対の方向に動いた。金 -4.28%、銀 -8.62%、プラチナ -6.47%、パラジウム -7.16%。一方でWTI原油 +3.64%、ブレント +1.13%。同じ週に同じドル指数(DXY: Intercontinental Exchange が算出する、主要6通貨に対するドルの強さを指数化したもの)+1.17% と同じ金利上昇(10年債 +8bp)を浴びながら、貴金属4銘柄の週次平均は -6.63%、原油2銘柄の平均は +2.38%。方向差は9.02ポイントになった。
「コモディティが下落した」でも「リスクオフだった」でも、貴金属4銘柄と原油2銘柄が9ポイント離れて逆方向に動いた週を括れない。横串のマクロ解釈は今週の総評に譲り、この稿ではコモディティの中で何が裂けたのかを掘る。
略語
単位
概念
| WTI | 90.54 | +3.64% | +3.64% | +57.68% |
| BRENT | 93.09 | +1.13% | +1.13% | +52.98% |
| XAU | 4,365.30 | -4.28% | -4.28% | +0.92% |
| XAG | 69.10 | -8.62% | -8.62% | -1.47% |
| HG | 6.28 | -1.26% | -1.26% | +11.55% |
| NG | 3.23 | -1.82% | -1.82% | -12.47% |
| PA | 1,263.60 | -7.16% | -7.16% | -22.44% |
| PL | 1,797.90 | -6.47% | -6.47% | -11.63% |
貴金属4銘柄の週次平均は -6.63%、原油2銘柄の週次平均は +2.38%。金/DXY感応度(金の週次リターンをDXYの週次変化で割った比率:DXYが1%動いたとき金が何%動いたか)を計算すると -3.66倍(-4.28% ÷ +1.17%)で、理論的な相関域 -2〜-3 のやや上端に位置する。
| 銘柄 | 6/1(月) | 6/2(火) | 6/3(水) | 6/4(木) | 6/5(金) |
|---|---|---|---|---|---|
| WTI($/bbl) | 92.16 | 93.76 | 96.02 | 93.04 | 90.54 |
| ブレント($/bbl) | 94.98 | 96.00 | 97.81 | 95.03 | 93.09 |
| 金($/oz) | 4,475.20 | 4,489.10 | 4,436.70 | 4,475.80 | 4,365.30 |
| 銀($/oz) | 75.01 | 75.31 | 73.48 | 73.78 | 69.10 |
| 銅($/lb) | 6.52 | 6.65 | 6.48 | 6.51 | 6.28 |
| 天然ガス($/MMBtu) | 3.18 | 3.17 | 3.21 | 3.34 | 3.23 |
| パラジウム($/oz) | 1,360.50 | 1,373.10 | 1,317.10 | 1,318.80 | 1,263.60 |
| プラチナ($/oz) | 1,922.40 | 1,937.40 | 1,868.70 | 1,894.00 | 1,797.90 |
出典: Yahoo Finance API v8(2026-06-08取得)
週前半(6月1日〜3日)、WTIは $92.16 から $96.02 まで上昇した。ホルムズ海峡閉鎖が継続するなか地政学プレミアムが価格を支え、貴金属も金 $4,475〜$4,489、銀 $75 台と週初はほぼ横ばいで推移した。
6月4日(木曜)に状況が変わった。WTIが単日 -3.10%($96.02 → $93.04)と崩れ始めた。この日はまだNFPは発表されていない。停戦交渉進展を示す報道(60日間の覚書段階、トランプ大統領「交渉は進展している」発言)が地政学プレミアムの再評価を始めた動きと整合するが、因果特定は後段で論じる。貴金属は金 $4,475.80、銀 $73.78 とまだ持ちこたえた。
6月5日(金曜)、NFP発表後に全方向の急落が起きた。発表内容と市場の反応は次の通り。
系列: WTI 週内日次推移(2026-06-01 〜 2026-06-05、出典: Yahoo Finance API v8)(単位: $/bbl)。期間: 2026-06-01〜2026-06-05。開始: 92.16、終了: 90.54、最小: 90.54、最大: 96.02。傾向: 下落。
| 日付 | 値 | 単位 |
|---|---|---|
| 2026-06-01 | 92.16 | $/bbl |
| 2026-06-02 | 93.76 | $/bbl |
| 2026-06-03 | 96.02 | $/bbl |
| 2026-06-04 | 93.04 | $/bbl |
| 2026-06-05 | 90.54 | $/bbl |
横軸は6月1日(月)〜5日(金)の5営業日、縦軸はWTI先物終値($/bbl)。6月3日(水)のピーク $96.02 から6月4日(木)の $93.04、6月5日(金)の $90.54 への急落幅(合計 -5.71%)が一目で確認できる。

2026年2月28日に米国・イスラエルがイランへの攻撃を開始。3月4日からイラン革命防衛隊(IRGC)がホルムズ海峡を事実上閉鎖した。世界の石油・LNG供給の約20%が通過する水路が遮断され、IEAは「史上最大の供給途絶」と評した。
W23週(6月1日〜5日)時点では、米・イラン間の停戦交渉が60日間の覚書(MOU)段階にある。海峡は依然再開していない。ブレント原油は2026年4月30日のピーク $114.01 から6月5日終値 $93.09 まで -18.4% 下落した状態。
一次ソース: https://en.wikipedia.org/wiki/2026_Strait_of_Hormuz_crisis(経緯タイムライン参照)

実質金利=名目金利(銀行や国債が払う利息の率)−期待インフレ率(物価が今後上がると予想される率)。名目金利が上がってインフレ期待が変わらなければ、実質金利は上昇する。
金は利息を生まない資産だ。100万円を金で持っていても1円も利息が付かない。一方で国債を持てば名目金利分の利息が入る。名目金利が上がると「金を持ち続ける機会コスト(=手に入れられたはずの利息)」が増す。機関投資家は金から債券・預金に資金をシフトし、金が売られる。実質金利で見るのは、インフレが高い局面では名目金利が高くても「実際に稼げる実質の利息」は低くなりうるため。
貴金属4銘柄が週次平均 -6.63% で同方向に急落した理由は、NFPサプライズが引き起こした実質金利の上昇に行き着く。単一のマクロショックが4銘柄をそろって同じ方向に動かしている以上、個別ファンダではなく共通因子(実質金利)が支配していると判断できる。
NFP +17.2万人 vs 予想 +8.5万人という+8.7万人のサプライズが、12月FOMCの利上げ確率を48%から63%へ押し上げた(年内全体では約70%)。この期待転換が名目金利に転嫁され、10年債利回りが +8bp 上昇した。DXYも +1.17%上昇し、100の節目を回復した。名目金利が上昇してインフレ期待が大きく動かない環境では実質金利(= 名目金利 - インフレ期待)が上昇する。無利子資産である貴金属の機会コストが上がり、機関投資家のポートフォリオが調整される。結果として、金 -4.28%、銀 -8.62% の急落が起きた。
金とドル指数は逆相関を持つことが知られており、過去データからの経験則では「DXYが1%上がると金は2〜3%下がる」とされる。これを感応度(-2〜-3倍)と呼ぶ。今週は金の週次リターン(-4.28%)をDXYの週次変化(+1.17%)で割ると -3.66倍。この範囲のやや上端で、NFPショックに対して金がやや過剰反応した形だ。
このチェーンは各リンクの中間証拠がデータで確認できるため、因果として記述できる。NFP → 利上げ確率変化は CME FedWatch(12月FOMC: 48%→63%、年内全体: 約70%)で、利上げ確率 → 名目金利変化は10年債 +8bp で、名目金利 → DXY変化は +1.17% で、それぞれ裏取り済みだ。
原油の方向差を生んだのは、金融側とは独立したもう一つのショック(ホルムズ海峡閉鎖の継続)だ。
ホルムズ海峡は2026年3月4日からイラン革命防衛隊が閉鎖しており、W23週時点で停戦交渉は60日間の覚書(MOU)段階にある。海峡は依然再開していない。Goldman Sachsは現在の原油価格にホルムズ1カ月全面閉鎖相当の地政学プレミアム約 $18/bblが折り込まれていると推計している。このプレミアムが原油の下値を支え、NFPショックによる金融的な下押し圧力と拮抗した(それでも6/5単日 -2.69% と下落した)。
NFP発表日の6月5日にはWTIも -2.69% と下落している。金利・ドル上昇が原油にも下押し圧力をかけたが、地政学プレミアムがその圧力に拮抗した。「金が下がったから原油が上がった」という解釈は誤りだ。2つの独立したショックが同じ週に並行して作用した結果として方向差が生じた。金融側チェーン(NFP→実質金利→貴金属売り)と物理側チェーン(ホルムズ→供給制約→地政学プレミアム)は互いに異なるメカニズムで動いた。
「金融資産的」とはマクロの実質金利・ドル動向に感応して動く性質、「物理資産的」とは実際の需給・供給制約に感応して動く性質を指す。同じ「コモディティ」でも、この2つの性格は全く異なる力に支配される。
今週のコモディティを「コモディティ指数」で括ると、この構造変化は見えない。銘柄を性格別に3分類すると整理できる。
| 性格 | 銘柄 | 今週の動き | 主なドライバー |
|---|---|---|---|
| 金融資産的(実質金利感応) | 金・銀・プラチナ・パラジウム | -4.28%〜-8.62%(全4銘柄同方向) | NFP → 利上げ期待 → 実質金利上昇 → 機会コスト上昇 |
| 物理資産的(供給制約感応) | WTI・ブレント | +3.64% / +1.13%(週次) | ホルムズ閉鎖継続、週後半は剥落予兆 |
| 中間(景気循環感応) | 銅・天然ガス | -1.26% / -1.82%(小幅) | 中国需要鈍化と米景気堅調が相殺 |
この分類は「コモディティ = リスク資産」という一括解釈が機能しない週であることを示す。物理資産的な性格を持つ原油はホルムズプレミアムが下値を支え、金融資産的な性格を持つ貴金属は実質金利の上昇を正面から浴びた。
反証として、銅 -1.26%・天然ガス -1.82% は「中間」に位置して純粋な二分にならない点を先出しする。この中間の存在は問題ではなく、むしろ貴金属と原油の極端な方向差(9.02pp)を際立たせる基準点として機能する。
地政学プレミアムとは別に、米国内の需給構造が原油の下値を支えている。
EIA(米エネルギー情報局)の5月29日週のデータでは、製油所稼働率が93.1%(前年同期91.1%、+2.0ポイント)。全製品需要の4週平均は2万404千バレル/日(bpd)で前年比 +3.0%。商業原油在庫は4億3,370万バレル(MB)で5年平均比 -3%。SPR(戦略石油備蓄)は3億5,710万バレルで前年比 -11.1%、2024年1月以来の最低水準だ。
需要 +3%・在庫 -3%・SPR -11% が揃うタイト構造は、地政学プレミアムが部分的に剥落しても原油の下値を支える二重の支持線として機能する。UBS(スイス系大手投資銀行)も6月1日の見解で、停戦後も「石油製品在庫が各地で低水準」のため、地政学プレミアムの全額剥落は想定しにくいと指摘している。
5月29日週のガソリン在庫は前週比 +3.4MB(百万バレル)の積み増しとなった。「需要強・在庫薄」というテーゼへの反証となる動きだ。ただし、製油所稼働率を +2ポイント引き上げている業界の動きは「夏需要期前の先回り在庫構築」として整合的に解釈できる。夏需要(6〜8月)が想定を下回れば在庫過剰に転じるリスクは残る。
| 品目 | 5/29/26 | 5/22/26 | 週間変化 | 前年比 | 5年平均比 |
|---|---|---|---|---|---|
| 商業原油(MB) | 433.7 | 441.7 | -8.0 MB | -0.6% | -3% |
| ガソリン(MB) | 215.0 | 211.6 | +3.4 MB | -5.8% | -5% |
| 留出油(MB) | 102.3 | 100.8 | +1.5 MB | -4.9% | -3% |
| SPR(MB) | 357.1 | 365.1 | -8.0 MB | -11.1% | — |
出典: EIA Weekly Petroleum Status Report(https://www.eia.gov/petroleum/supply/weekly/pdf/highlights.pdf、2026-06-08取得)
| 指標 | 5/29週 | 前年同期 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 製油所稼働率 | 93.1% | 91.1% | +2.0pt |
| 全製品需要(4週平均、千bpd) | 20,404 | 19,810 | +3.0% |
| ガソリン需要(4週平均、千bpd) | 8,843 | 8,788 | +0.6% |
| 留出油需要(4週平均、千bpd) | 3,599 | 3,558 | +1.2% |
出典: EIA Weekly Petroleum Status Report(2026-06-08取得)
OPEC+(石油輸出国機構と協調産油国の協調機構)サウジアラビア・ロシア・イラク・クウェート・カザフスタン・アルジェリア・オマーンの7カ国が、7月の生産目標を前月比 +18.8万バレル/日(bpd)引き上げることに合意した。2023年に合意した165万バレル/日削減の段階的解除の継続で、4〜6月の3カ月間で累計約60万バレル/日を増産してきた流れ。UAE は2026年5月1日付でOPECを脱退し、参加国が7カ国体制になった。
声明では「需給動向に応じて増産ペースを停止・縮小・反転する完全な柔軟性を保持する」との留保が付記された。ホルムズ海峡が閉鎖された状態での増産決定であり、増産分が物理的に市場に届くかは不透明なままだ。
6月5日終値 $4,365.30 は、1月の年初来高値 $5,595 から -21.98%。週末終値ベースで弱気相場入り基準(高値比 -20%超)を超過した。年末の $4,325.60 からの年初来リターンは +0.92%、わずか +$40 の上乗せが残るだけだ。
銀のアンダーパフォーマンスも顕著だ。金銀比率(金1オンスが銀何オンス分か、という価格比。数値が上がれば銀が相対的に値下がりしたことを意味する)は前週末の60.31から6月5日には63.17へ +2.87上昇した。銀の週次下落率(-8.62%)を金の週次下落率(-4.28%)で割ると 2.01倍で、歴史的な銀/金の下落倍率の理論域(1.5〜2.0倍)のやや上端にある。
技術的な弱気相場入り(高値比 -20%超)は、来週以降の反転で打ち消される可能性がある脆い判定だ。「弱気相場が継続する」という予測ではなく、「この週の終値時点での計測値として -21.98%になった」という事実を記録する。
金のドローダウン推移を数字で追う。
| 時点 | 金価格($/oz) | 1月高値比 |
|---|---|---|
| 2026年1月(年初来高値) | 5,595.00 | 0.00% |
| 2026-05-29(前週末) | 4,560.50 | -18.49% |
| 2026-06-05(週末終値) | 4,365.30 | -21.98% |
前回の金の本格的な弱気相場は2011年9月高値 $1,920 から2015年12月安値 $1,050 へ -45%、所要4.3年だった。今回の高値はわずか5カ月前(2026年1月)の話だ。
共通点は実質金利上昇局面で金が売られる構造メカニズムだ。異なるのはドライバーで、2011〜2015年はインフレ低下(CPI 総合が4%台から2%台へ)が実質金利を押し上げた。今回はインフレが高止まり(PCEコア +3.3%、CPI総合 +3.8%、CPIコア +2.8%)するなかで名目金利上昇が実質金利を引き上げている。「金売り」という結果は同じだが、メカニズムの入口が逆方向になっている。
週次リターン(前週末比 +3.64%)と月曜終値比(-1.76%)が逆符号になっている。
前週末(5月29日)の $87.36 が計算の基準点だ。週が始まった月曜時点でWTIはすでに $92.16 にあった。
| 比較区間 | 価格推移($/bbl) | 変化率 |
|---|---|---|
| 前週末(5/29)→ 金曜(6/5) | 87.36 → 90.54 | +3.64% |
| 月曜(6/1)→ 金曜(6/5) | 92.16 → 90.54 | -1.76% |
| 週内ピーク(6/3)→ 金曜(6/5) | 96.02 → 90.54 | -5.71% |
前週末比の +3.64% という数字は、週が始まる前の安値スタートを利用した比較になっている。
NFP発表は6月5日(金曜)だが、調整は前日の6月4日(木曜)にすでに始まっていた。6月4日には -3.10%($96.02 → $93.04)の下落が起きていた。NFP前日の動きを金利・ドル要因で説明することはできない。停戦交渉進展報道(60日MOU段階)が地政学プレミアムの再評価を促した動きと整合する。
Goldman Sachsの推計では、現在の原油価格にホルムズ1カ月全面閉鎖相当の地政学プレミアム約 $18/バレルが折り込まれている。
この「予兆」の解釈には留保が必要だ。6月4日の下落が停戦観測によるものか、OPEC+増産(6月7日決定)の事前リーク観測なのか、別のイベントなのかを一次ソースで特定することは現状できていない。「市場がNFPより先に何かを動かした」という事実は週内日次データで確認できるが、その「何か」の特定は状況証拠の域を出ない。
Goldman Sachsはホルムズ1カ月全面閉鎖シナリオに相当する地政学プレミアムとして約 $18/バレルを推計している。WTI 6/5終値 $90.54 から $18 を引いた $72.54 が停戦成立時の理論的なファンダメンタル水準。
UBS(6月1日)は「石油製品在庫が各地で低水準」なため、停戦後も地政学プレミアムの全額剥落は想定しにくいと指摘。金・銅・アルミも構造的供給逼迫がサポート要因として残るとした。
プラチナのYTDは -11.63%、パラジウムは -22.44%。週次でもプラチナ -6.47%、パラジウム -7.16% と金(週次 -4.28%)を上回る下落幅だ。
NFP発表日の利上げ期待上昇は、同じ貴金属として金・銀・PGMに同方向の売りをもたらす。しかし今週の1週間の利上げ期待変化だけではYTD二桁マイナスの水準感を説明できない。金はYTD +0.92% でほぼトントンなのに、パラジウムはYTD -22.44%。この年初来の差は、金融要因以外の別の力が継続的に効いていることを示す。
PGMの主要用途は自動車の排気触媒(ガソリン車・ハイブリッド車向け)で、EVには使われない。EV比率の上昇に伴い、内燃機関車向けの触媒需要が構造的に弱くなる方向だ。ただし、米国のガソリン需要は4週平均 +0.6% と底堅く、内燃機関車の触媒需要が崩壊しているわけではない(米国限定の数字であり、世界需要、特に中国のEVシフトによる力学は別の話だ)。
PGM需要を「自動車触媒 vs 工業 vs 投資」に定量分解するデータは現時点で取得できていない。YTD二桁マイナスは「金融要因 + 構造要因の積み上げが示唆される」と留保して、EV起因の断定はしない。
PGM(Platinum Group Metals: プラチナ族金属)は白金族の6元素の総称で、主に商品市場で取引されるのはプラチナ(PL=F)とパラジウム(PA=F)。
主要用途:
EV(電気自動車)は排気ガスを出さないため触媒が不要。EV普及が進むほど自動車向けPGM需要の成長率が鈍化する構造にある。ただし定量的な寄与(YTDの何ポイントがEV要因か)は別途需要分解データが必要。
原油需要を巡って、米国と中国で正反対の動きが出ている。
米国:製品需要の4週平均は前年比 +3.0%、ガソリン需要 +0.6%、留出油(トラック・船舶燃料)+1.2%。EIAの実需データとして確認できる範囲では、米国内の需要は堅調だ。
中国:5月の海上原油輸入量は約6.36〜6.70百万バレル/日(Kpler推計。タンカー入出港を衛星データで追跡する商品データ企業)で、2月の1,139万バレル/日から -44% に急落した。2016年10月以来の低水準だ。イラクからの輸入は2月の79万バレル/日から5月は6万バレル/日へ、クウェートからはゼロになった。
この二極化の解釈が重要だ。中国輸入急落の主因は、ホルムズ閉鎖によって中東依存度の高い中国が物理的に輸入できなくなったことだ。停戦が成立して中東産原油が再流通すれば、中国の輸入量は比較的速やかに回復する可能性がある。2016年の低水準は供給過剰による価格低迷が原因で、今回とメカニズムが正反対だ。
中国の5月海上原油輸入量(Kpler推計):
主要輸入先の変化:
2016年との違い: 2016年は「供給過剰 → 価格低迷 → 需要旺盛」のサイクルで輸入が減っていた。今回は「地政学供給ショック → 中東依存の中国が物理的に輸入不能」という全く逆のメカニズムによる低水準。停戦で中東産原油が再流通すれば即座に回復する可能性がある。
| 日付 | イベント | 市場予想 / 備考 |
|---|---|---|
| 6/9(火) | 米貿易収支 | — |
| 6/10(水)21:30 JST | 米5月CPI | Cleveland Nowcast +4.0〜4.2% |
| 6/11(木)21:15 JST | ECB政策金利 | +25bp → 2.25%(99%確率) |
| 6/11(木)23:30 JST | EIA週次石油在庫 | 6/5週分(商業原油・ガソリン・留出油・SPR・稼働率) |
| 6/11(木)23:30 JST | EIA天然ガス週次在庫 | 6/5週分 |
| 6/15〜16(月火) | 日銀金融政策決定会合 | +25bp → 1.00%(96%確率) |
| 6/16〜17(火水) | FOMC | 据え置き(99%超確率) |