米CPI週の株式 — 最高値の前提を裁く3つの分岐(2026-W33)
S&P 500は終値史上最高値圏にあるが、週次上昇の約9割は雇用統計前に完成していた。来週は7月CPIが「利上げ遠のく」と「ディスインフレ閉鎖」のどちらの読みを裁くか、AIハード3決算と小売・UMichが二次判定する。
S&P 500は8月7日、7,757.64で終値史上最高値を更新し、週間では+3.58%(+267.92pt)上昇した。同じ週に出た7月の米非農業部門雇用者数は−23,000人(予想+80,000)、失業率4.1%、5〜6月改定は合計−103,000人である。弱い雇用と最高値は同居しているが、「雇用弱→利上げ遠のく→株高」という説明が担当できるのは、週次上昇のうち8月7日分の+47.80pt=17.84%にすぎない。上昇の92.15%は雇用統計の3日前までに完成していた。
来週(8月10〜14日)にFOMC本体も日銀の政策決定会合もない。株式の本線は、(1) 8月12日の米7月CPI、(2) SMCI・Cisco・AMATのAIハード決算、(3) 8月14日の米小売売上とミシガン大学消費者信頼感速報、の3点である。焦点は結果の予言ではなく、どの条件なら最高値圏が続き、どの条件ならテック主導で折れるかを先に固定することにある。条件とキーレベルを先に置き、当日の見出しに引きずられないための見立てである。
| 指数 | 8/7終値 | 週次 | 月次(7/8→8/7) | 年初来 |
|---|---|---|---|---|
| S&P 500 | 7,757.64 | +3.58% | +3.67% | +13.11% |
| Nasdaq 100 | 29,722.30 | +5.12% | +1.61% | +17.92% |
| 日経225 | 65,606.71 | +1.93% | −1.81% | +26.57% |
3指数はそろって週次プラスだったが、意味は揃っていない。直前区間(7/8→7/31)はS&P +0.09% / NDX −3.34% / 日経 −3.68%と横ばい〜下落だった。当週を足した月次は+3.67% / +1.61% / −1.81%になる。S&Pは停滞からの新規の上値、NDXは直前下げを埋めて+1.61%超過した形(穴埋め検算は一致)、日経は直前下げの50.66%しか埋めていない。年初来対数リターンに占める当週の割合はS&P 28.6% / NDX 30.3% / 日経 8.1%で、米株側に時間軸が集中している。日経の8.1%は年初来+26.57%という分母の大きさの反映でもあり、日本株が弱いことの証明ではない。
日次で見ると、S&Pは8/3(日次+1.48%)と8/4(日次+1.79%)の2日で+246.90pt=週次上昇の92.15%を作り、8/5・8/6は日次−0.17% / 日次−0.18%と小幅安、雇用統計当日8/7が日次+0.62%で最高値を更新した。週内終値を日次リターンから再構成すると7,600.57→7,736.62→7,723.47→7,709.56→7,757.36となり、実測7,757.64との差は0.28ptにとどまる。8/3・8/4を動かした材料は入力データに無く、因果も相関も主張しない。言えるのは「既存のNFP説明が時系列で週次上昇の大半をカバーしない」という限定だけである。
名目10年金利は4.67%→4.64%(−3bp)にとどまる。これでNDX +5.12%を説明すると1bpあたり1.71%になり、同週の金+8.70%・銀+10.78%も同時に説明する必要が生じる。クロスアセットの序列は銀+10.78% > SOX +9.25% > 金+8.70% > NDX +5.12% > S&P +3.58% > 日経+1.93% > XLE −3.44% > WTI −8.96%で、貴金属が株式を上回っている。リスクオン一色の週ではない。金利経路は量的に足りないが、実質金利(TIPS)は未取得のため、名目だけでの否定に留める。
FedWatchの水準(Investing.com経由、8/7)は次のとおりだ。9/16 FOMCは据え置き56.6% / 利上げ+25bp 43.4%。10月は利上げ計66.6%(+25bp 52.1% + +50bp 14.5%)、年内少なくとも1回利上げはおよそ80%。確率表に利下げの行はない。変化幅の議論はbrief内で時点帰属が割れているため使わない。水準だけを前提として置く。
セクターではPHLX SOXが週+9.25%(終値12,356.79)、SOXX +7.60%、XLK +7.20%と強く、XLEは−3.44%(WTI −8.96%と同方向だが、XLEの下げはWTIの38%にとどまる)。Mag7内部はNVDA +11.56% / MSFT +7.59% / META +6.36% / TSLA +5.58%に対し、AAPL +1.43% / AMZN +1.07% / GOOGL −0.51%と分散し、上位4平均+7.77% vs 下位3平均+0.66%(レンジ12.07pp、指数超えは4/7銘柄)である。市場全体の参加が広いか狭いかは、等ウェイト指数・騰落ライン・200日線上回り比率が未取得のため判定しない。
日経は週内ピーク66,302.01(8/5)から2日で−1.05%して引けた。日次は−0.94 / +0.32 / +3.66 / −0.93 / −0.12%で、5日中3日がマイナス。8/5を除く4日の複利は−1.67%で、同処理のS&Pは+3.76%(差5.43pp)。週次の日米格差のうち通貨換算で説明できるのは6.1%にすぎず、残りは現地要因として残る。月次なら通貨寄与は格差の52.4%まで膨らむ。同じ通貨要因でも時間軸で説明力が変わる。
| 観測 | 実測 | 示すもの | 示さないもの |
|---|---|---|---|
| NFP 7月 | −23,000人 | 雇用の弱さ | 週間株高の主因 |
| 5〜6月改定 | 合計−103,000人 | 過去分の下方修正 | 来週CPIの結果 |
| ISM製造業 / サービス | 55.6 / 54.1 | 活動は拡大域 | ディスインフレ確定 |
| JOLTS求人 | 740万件・率4.4%横ばい | 需要崩壊型ではない示唆 | CPIの方向そのもの |
| Q2生産性 / ULC | +1.4% / +1.3% | 労働コスト圧力は緩い | コア加速の否定 |
株が先週織り込んだのは「雇用が弱いから利上げが遠のく」という一方向の読みだ。同じ週のデータは逆も示す。ISM製造業55.6(予想54.0)・ISMサービス54.1・JOLTS横ばい・サービス雇用だけ47.4(縮小域)が同居する。求人が減らず雇用者数だけ減る形は採用抑制型に近く、需要が保たれるならディスインフレは自動では来ない。コンセンサス自体がコアYoYを2.6%→3.0〜3.1%と加速で置いており、in-lineは「現状維持」ではなく「再加速の確認」を意味しうる。この優劣は8/12 CPIが裁く。無理に統合しない。
週初8/10 08:50 JSTの日銀「7月会合 主な意見」は日経側の温度として意識する。7/31は政策金利を誘導目標0%程度で据え置き(8対1)しており、9/17–18利上げ観測への材料になりうる。ただし本稿の本線は米株の物価と決算に置く。政策イベント不在の週は、統計1本あたりの価格インパクトが増幅されやすい一方で、方向を持続させる触媒も乏しい。8/13の米PPIはCPIの二次確認として扱う。
6月実績はヘッドライン−0.4% MoM / +3.5% YoY、コア0.0% MoM / +2.6% YoYだった。二次コンセンサス(FactSet / Morningstar経由、一次未確認)はヘッドライン+0.2% MoM / +2.8〜2.9% YoY、コア+0.3% MoM / +3.0〜3.1% YoYである。
コンセンサス通りでも、ベース効果でヘッドラインYoYはおよそ3.5%→2.85%(−0.65pp)と鈍化し、コアYoYは2.6%→3.05%(+0.45pp)と加速して見える構造になる。算術の骨格は YoY_新 ≒ YoY_前月 + 当月MoM − 前年同月MoM であり、方向が逆になる主因は当月の物価変動ではなく前年同月のベースである。見出しの「インフレ鈍化」と市場反応が食い違いうる。反応変数は前年比ではなく、コアMoMが0.2 / 0.3 / 0.4のどこに乗るかである。「コア加速は織り込み済み」「コア0.4%以上の上振れは未織り込み」と置く。項目別内訳予想(コア財 / コアサービス / 住居費 / 関税寄与)は未取得のため、加速の中身は事前に切り分けられない。
物価結果は、金融政策観測→市場金利の見通し→将来利益の割引、という仮説経路を通じて株価評価と関係し得る。ただし各矢印の因果は今回の入力だけでは確定できない。読むべきは「予想どおりか」の採点表ではなく、コアMoMの位置に応じてS&PとNDXが最高値圏を維持できるかどうかである。
| 分岐 | 条件 | 株式の方向 | キーレベル |
|---|---|---|---|
| ベース | コア+0.3% MoM / YoY 3.0〜3.1%(コンセンサス通り) | 反応は限定的。加速確認が意識されればNDX / SOXの上値は重い。指数は横ばい〜小幅安 | S&P 7,757.64攻防 / 下値7,489.72。NDXは29,252.56前後 |
| 上振れ(株高) | コア≤+0.2% MoM かつコアYoY≤2.9% | 株が織り込んだディスインフレ経路が確認。利上げ確率低下観測とNDX / SOX主導の新規上値。日経は日銀「主な意見」次第で追随度が変わる | S&P 7,757.64上抜け継続、NDX 29,722.30超 |
| 下振れ(株安) | コア≥+0.4% MoM、またはYoYが3.4%方向 | 週次上昇の大半が帰属不明だった脆さが効き、巻き戻しが速くなりうる。9月利上げ確率の反転が主経路 | S&P 7,489.72(週次全戻し)・7,482.71(月次全戻し)。NDX 28,998.25割れ警戒 |
上振れでもNDXが29,722.30を明確に超えられないなら、「物価が落ち着いても短期ではテックが伸びない」側の証拠になる。下振れでもS&Pが7,489.72を割り込めないなら、最高値圏の防衛が厚いと読む。同じ先週データを「利上げを外す最良の配置」と読む解釈と、「ディスインフレ経路が閉じている」と読む解釈のどちらが正しいかは、この1本の発表が裁く。同日引け後にCisco決算が重なるため、12日の値動きを物価単独へ帰属させない。
半導体はすでに週+9.25%進んだ位置にある。来週の3社は、好材料の一部が事前に公開された状態で迎える。上昇余地が構造的に狭い配置であり、EPSのbeat余地を本線にしない。
真の焦点は次期ガイダンスと受注残である。事前開示済み情報は決算日の新規買い材料になりにくいが、「だから下落する」までは導かない。ガイダンス・受注残・カンファレンスコールの内容が新情報になりうる。
| 分岐 | 条件 | 株式の方向 | キーレベル |
|---|---|---|---|
| ベース | 3社ともガイダンス通り〜小幅上振れ(事前開示の確認) | SOXの追加上昇は限定。NDX内テック経由の波及も小幅 | SOX 12,356.79近傍 |
| 上振れ | AI向け受注残・次期見通しが明確に上方 | 「上昇余地が狭い」読みは棄却。NDXの新規上値と連動 | SOXが12,356.79を明確に上抜け、NDX 29,722.30超 |
| 下振れ | ガイダンス据え置き〜下方、またはSMCI売上が下限割れ | 好材料消費後の失望。週+9.25%分の巻き戻しが速く出やすい | SOX 11,310.56(7/31逆算)方向 |
参考としてSOXX終値543.27(週+7.60%)。SOXとSOXXの差1.65ppは銘柄集中かmethodology差かを切り分けられないため、補足に留める。NVDA 223.96(週+11.56%)がMag7内の最上位で、この銘柄の反応がSOXとNDXの橋渡しになる。CoreWeave・Deereはコンセンサス未取得のため分岐の軸にしない。CPIと同日にCiscoが重なる週なので、テックの動きを決算単独の物語にも物価単独の物語にも閉じない。3社の発表後にSOXが11,310.56を下回れば、先週の半導体上昇分はすべて巻き戻ったことになる。逆に8/12または8/14終値で12,356.79を上回れば、「上昇余地が狭い」という読みは棄却される。
二次コンセンサスでは、7月小売売上は+0.2% MoM(6月も+0.2% MoM / +6.7% YoY)、UMich 8月速報は54.6(7月final 55.2)。1年インフレ期待は7月finalで4.2%と残り、Fedの利上げ派論拠として残存している。「消費の底堅さ維持」は織り込み済み、「NFP弱化の消費への波及」は未織り込みと置く。
真の焦点は、求人740万件横ばいのまま雇用者数だけ減る採用抑制型が続くのか、需要そのものが剥落するのか、の見分けである。小売がここで崩れれば、「雇用弱→利上げ遠のく→株高」は「雇用弱→需要減退→業績懸念」へ切り替わりうる。金利低下でも指数は下げうる。先週の株高を名目金利だけでは説明できていない以上、割引率低下が自動的に株高を支えるとは限らない。逆に小売が強いだけでは無条件の株高ではなく、CPIが上振れていた場合はインフレ再加速の裏付けになり、株には両義的だ。UMichの1年期待が4.2%を上振れ更新すれば、CPIが下振れていても週末の織り込みを利上げ側へ引き戻しうる。
| 分岐 | 条件 | 株式の方向 | キーレベル |
|---|---|---|---|
| ベース | 小売+0.2%前後、UMich 54〜55 | 「雇用は弱いが消費は保っている」構図が維持。週の主役はCPIの結果として残る | S&P 7,489.72〜7,757.64 |
| 上振れ(需要確認) | 小売≥+0.5% MoM | 需要は強い。CPI下振れと重なれば高値圏持続、CPI上振れと重なれば利上げ観測を加速しうる | S&PはCPI分岐に従属 |
| 下振れ | 小売がマイナス、またはUMichが53割れ | 業績懸念が割引率低下を打ち消し、指数は下げやすい | S&P 7,489.72割れ警戒。日経は64,362.02方向も意識 |
8/13の米PPI(二次: ヘッドライン+0.1% MoM / コア+0.3% MoM)は、ディスインフレ経路の二次確認として使う。コアが+0.3% MoM未満なら棄却側を補強する、という位置づけに留める。
| 指数 | 上値 | 中間・半値 | 下値 |
|---|---|---|---|
| S&P 500 | 7,757.64(8/7 ATH) | — | 7,489.72(7/31) / 7,482.71(7/8) |
| Nasdaq 100 | 29,722.30(8/7) | 29,252.56(7/8、穴埋め完了境界) / 28,998.25(週次上げ幅の半値) | 28,274.20(7/31) |
| SOX | 12,356.79(8/7) | — | 11,310.56(7/31逆算) |
| 日経225 | 66,302.01(週内ピーク) / 66,819.05(7/8) | — | 64,362.02(7/31) |
予測週終値でNDXが29,252.56を上回り、かつ日経が66,819.05を上回れば、「先週は穴埋め・半戻しにすぎない」という位置づけは棄却され、3指数とも新規上値取りへ移行したことになる。逆にNDXが28,998.25を下回れば穴埋め解釈が支持される。日経が66,819.05を超え、かつ週次騰落率がS&Pを上回れば、「日本の弱さは現地要因」という読みも棄却される。
(補足)8/5の日経+3.66%は、前日S&P週内最大の+1.79%との時差反映として読めるが、標本4日で等確率でも1/16で起こる水準のため、本線には置かない。
| イベント | 織り込み(水準) | ベース | 上振れ | 下振れ | キーレベル |
|---|---|---|---|---|---|
| 米CPI | コア+0.3% MoM二次。FedWatch 9月据え置き56.6% / 利上げ43.4%、10月利上げ計66.6%、年内~80%、利下げ行なし | 膠着〜小幅、上値重い | コア≤+0.2%→高値圏持続 | コア≥+0.4%→テック先行安 | S&P 7,757 / 7,490 |
| AIハード決算 | SOX週+9.25%後、事前開示多い | 追加上昇は限定 | ガイダンス上方→SOX上抜け | 失望→11,311方向 | SOX 12,357 / 11,311 |
| 小売・UMich | 小売+0.2% MoM二次 | CPI方向の持ち越し | 需要強い(CPI次第で両義) | 需要懸念で業績不安 | S&P 7,490 |
| 日時 | イベント | コンセンサス/前提 | 前回値 |
|---|---|---|---|
| 8/10 08:50 JST | 日銀「主な意見」 | 数値予想なし(文言の時期焦点) | 7/31据え置き8対1 |
| 8/11 17:00 ET | SMCI決算 | 粗利は8-Kで事前開示、売上は下限帯 | — |
| 8/12 21:30 JST | 米CPI | 二次: HL +0.2% MoM、コア +0.3% MoM | 6月 HL −0.4%、コア 0.0% MoM |
| 8/12引け後 | Cisco決算 | EPS $1.17、売上 $16.8B | ガイダンス $1.16–1.18 |
| 8/13 16:30 ET | AMAT決算 | 売上 $89.5億±$5億、EPS $3.36±$0.20 | — |
| 8/13 21:30 JST | 米PPI | 二次: HL +0.1%、コア +0.3% MoM | 6月 −0.3% MoM |
| 8/14 21:30 JST | 米小売売上 | 二次: +0.2% MoM | 6月 +0.2% MoM |
| 8/14 23:00 JST | UMich速報 | 二次: 54.6 | 7月final 55.2 |